女は空を支える

2014年10月10日

そんな殿様が来たらえらいことになるという危惧も芽生えた

水野忠邦の失敗は
この転封を三方領地替えにして
川越藩依怙贔屓の印象を薄めようとしたことにもある

川越→荘内
荘内→長岡
長岡→川越
という転封のうち
条件の悪い領地に移されるふたつの藩には
これといった不始末がないため
世間には徳川と縁続きの藩は贔屓され
外様は冷遇されるという状況が強く印象づけられた

このため
世間や他藩は概ね庄内藩に同情的な立場を見せていた

また
川越藩の内情の悪さは
藩主の無能が原因だという認識もあり
プロレタリアートである荘内の百姓には
そんな殿様が来たらえらいことになるという危惧も芽生えていた


この歴史小説の見処は
荘内藩の金主である本間家が画策し
百姓を焚き付けて
圧力団体化するところにある

一揆スレスレの行動を見せておいて
そこまではしない

江戸に大挙して押し寄せるかに見せて
少人数で老中に駕籠訴を仕掛ける

また
百姓の訴状も振るっている

平たく書くと
「おらが殿様はいい殿様だ ほかの殿様は考えられねえ」みたいに
素朴に訴えている

これを読んだ老中のなかには
「酒井忠器は果報者だ」と涙するものすらいる

もちろん
訴状に書いてあることは丸々真実ではない

財政破綻寸前の無能な殿様なんぞに来られたら
年貢の取り立てもいままでのようには済まない
冗談じゃねえよ
勘弁しろ
という計算が働いている

歴史的には
このゴタゴタは「荘内義民事件」と呼ばれているが
藤沢ですら(藤沢は山形県出身)
百姓をそこまで純朴だとは考えていない


用心棒も登場せず
斬り合いもないストーリーだが
なぜか緊迫感をかんじる


惜しむらくは
まぁ史実に忠実だとこんなふうな書き方になってしまうのだろうが
中盤以降の展開がやや雑な印象を受ける

幕切れは
え?と思うほどあっけない  続きを読む

Posted by onasorae at 18:29